【2022年版】緩和ケア領域で最近使われるようになった薬剤4種類の紹介

病室

今日は、タイトルのままなのですが、ここ数年でがんの患者さんの症状緩和に用いられるようになった薬を紹介したいと思います。

主に医師、あるいは医療者向けの内容になりますが、患者さんやご家族も治療薬の選択肢を知ることで、医師に処方を提案する、希望することも出来るようになるので、メリットがあるのではないでしょうか。

もっとも、緩和ケアに携わっている先生には、「え、今更?」という内容になります。ただ、訪問診療を行っている仲間の医師には「そんな薬があるのか」と喜ばれたものもありますのでお役に立てれば幸いです。

本日紹介する薬は、「ジクトルテープ」、「ロナセンテープ」、「シクレスト舌下錠」、「エドルミズ」の4つです。

目次

ジクトルテープ

これはご存知の方が非常に多いのではないかと思います。2021年5月に薬価収載された、経皮吸収型持続性がん疼痛治療薬であり、ジクロフェナク、つまりボルタレンの貼付薬になります。

ちょっと勘違いしやすいと思われますが、湿布ではありません。貼るのは、痛い場所である必要はないのです。貼る場所は以下をご参考に。なおジクロフェナクですのでPPI製剤の併用(消化管潰瘍の予防)は強く推奨します。

テープを貼る場所

ジクトルテープ1枚は75mgですが、これでだいたい内服のボルタレン錠25mgと鎮痛効果は同等です。通常、ジクトルテープは1度に2枚使用し、1日1回貼り換えます。3枚まで増量可です。使った感想はボルタレンのようにシャープに効きます。

重宝するのは、痛みや慢性的な発熱などに悩む消化管や頭頚部のがんの患者さんで内服が困難な場合など。これまではボルタレンは座薬か、NSAIDsのグループではロピオンという注射剤があるくらいでした。

圧倒的に簡便に、疼痛・発熱という厄介な症状にアプローチ出来るので、私にとっては待ちに待った製品でした。

ちなみに、発売当初は適応疾患は「がん性疼痛」だけでしたが、今は「腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群及び腱鞘炎における鎮痛・消炎」が適応追加になっています。

ロナセンテープ

もともと錠剤だったロナセンに経皮吸収製剤が出たのは2019年10月です。20mg、30mg、40mgの製剤があります。

何の薬かと言うとセロトニン・ドーパミン遮断薬(SDA)と呼ばれる抗精神病薬で、適応病名は統合失調症です。…ですが、緩和ケア領域では他の抗精神病薬同様、せん妄や嘔気の治療で選択肢となります(保険適応外使用)。

ロナセンテープ20mgは、錠剤のロナセン4mgと同等で、リスパダール1mg、ジプレキサ2.5mgと等価とされています。

効果発現に時間がかかるのは欠点ですが、内服が難しいケースでは非常に使いやすいのではないかと思います。ちなみに半分にカットして使えるかについては、お約束の「データなし・非推奨」なのですが、構造上は出来なくはありません。

なお、他のSDA同様の副作用に注意であることは言うまでもありません。

シクレスト舌下錠

こちらも、MARTAと呼ばれる抗精神病薬の舌下錠です。もっと正確に言うとMARTAとSDAの性格を持っているという感じでしょうか。

実は2016年から使用されていますが、案外ご存知ない先生も多いので今回紹介させていただきました。

使い方は1回5mgを1日2回。最大1日20mgまでです。5mgでだいたいリスパダール1mgと同等です。速やかに効果が出ますが持続時間も結構長いです。

緩和領域では、やはりせん妄・嘔気対策で使用されることと思いますが、不眠にも有効だと思います。ロナセンは24時間血中濃度が保たれますので夜だけ使うならシクレストが良いでしょう。

ただ、リスパダールはOD錠、液剤もあり、0.5mg製剤もあり使いやすいので、本剤が役に立つのは消化管閉塞などで内服は困難、あるいは十分な効果が期待出来ないケースなど限られるとは思います。

エドルミズ

この薬に関しては、使用の条件がかなり厳しいため「こんなのがあるよ」という紹介に留めます。

初のがん悪液質治療薬となります。つまりがんの影響で食欲が低下・体重が減少した患者さんがこの薬の対象です。1錠50mgを、1回2錠、空腹時に内服します。

治療3か月後には、対象群(プラセボ群)では500gの体重減少があったのに対してエドミルズを内服した群では1kgの体重増加が認められました。

これだけ聞くと素晴らしい薬です。しかし、この薬の使いどころが少々難しく、どんな患者さんにも使えるわけではありません。まず、2022年11月現在対象は非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんに限られています。ただし心疾患や重度の肝機能障害を有する患者さんでは使用出来ません。

処方医は悪液質の診断・治療に十分な知識・経験を持つ医師のもとで使用するように、と警告されており、処方医はe-Leanningの受講が必要です。

また、臨床試験では余命が4か月以下と考えられる患者さん、Performance Statusが3または4の患者さん、酸素使用中のCOPDの患者さんなどは除外されていますので効果に対する評価がなされていません(処方を禁止されているわけではない)。

Performance Statusとは…全身状態の指標。日常生活の制限の程度を示す。
0:まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
1:肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。
例:軽い家事、事務作業
2:歩行可能で、自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない。
日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3:限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす
4:まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。
完全にベッドか椅子で過ごす。

「がん悪液質」のイメージは終末期で痩せ衰えた患者さんだと思いますが、実際にはもう少し幅広い理解になります。詳しく学びたい方は以下の「適正使用のお願い」を参考にして下さい。

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まとめると、非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんで比較的体力が保たれているけれども食欲がなく体重が減少傾向の患者さん、かつ重篤な心疾患・肝疾患がない患者さんが本剤の良い適応ということになります。

まとめ

今回は2022年11月現在で、ここ数年で使用されるようになって来た緩和ケア領域の薬を4つ紹介させて頂きました。特にジクトルテープは臨床で活躍の場が多くなると思います。患者さんのお困りの症状にお役立ていただければと思います。

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この記事を書いた人

元ホスピス勤務医、総合内科専門医。2013年7月大田区久が原に「小原りぼんクリニック」を開業。緩和ケアと認知症診療、訪問診療をライフワークにしています。介護は、まずは家族を支えなければ始まらないをモットーに、対話を重視する診療を心がけています。

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