介護あるある?医者の前では、いつも元気な患者さん

車いす

いつもは痛いとかつらいとか、一日中訴えている患者さんが、診察でドクターを前にすると「大丈夫です!」などと元気そうに答える…そんな患者さんは少なくないようです。普段はもの忘れが進んでいて、ぼんやりしている患者さんが医師の前ではシャキッとし、しっかりと会話をすることも珍しくありません。

相手が医師の場合だけではなく、例えば介護保険の認定調査の時だけ、スムーズに立ち上がったり痛みを我慢して良いところを見せようと張り切ってしまう患者さんもいるようです。

こうした、「患者さんが特別頑張っているところ」をみることが多い人たちは、自分が見ている患者さんが全てだとは思わないようにすべきです。それをきちんと意識しないと患者さんの病状や介護の大変さを軽く判断してしまう可能性があり注意が必要だと思います。

目次

医師と看護師の温度差

入院している患者さんでよく起こるのは、患者さんの訴えに対する医師と看護師の受け止め方の違いです。入院中、患者さんの最も近くにいるのは看護師です。多くの場合患者さんは体調の変化を看護師に打ち明けます。


たとえば、「今日は特別痛いんだよね」「こんなにだるいのは初めてだよ」といった具合。

ところが看護師さんが医師に伝え、医師が回診に行くと、患者さんんは「大丈夫です」「治りました」という答えが結構な割合で返ってきます。見た目もいつもに比べて特に辛そうではありません。そうか、もう大丈夫なのかと思ってそのままにしていると、翌日などにまた「患者さんがつらそうです」と、同じ報告があがって来たりします。

たまたま回診の時は痛みが軽かった、ということもあるかもしれませんが、患者さんは、医師には遠慮したり、看護師さんと医師には別の顔を見せる場合があるのです。

別に患者さんが意図的にそうしているとは思いませんが、たかだか5分程度しか会わない医師には無意識に自分の最高の姿を見せ、「大丈夫です」と笑顔で答えてしまう傾向があると考えています。

つらさを誰かには聞いて欲しいが、医師に伝えると痛み止めを増やされてしまいそうだ、そういうつもりではない、ということもあるかもしれません。

これは医師と看護師、双方が意識する必要があります。医師は報告を「大袈裟だ」と考えがちになりますし、看護師は医師を「冷たい、何もしてくれない」と考えてしまうかもしれません。こうしたことが続くとチームとしてマイナスが大きく、最終的には患者さんに不利益が生じます。

むしろ、患者さんは何故態度が違うのだろうという視点を持つことが大切です。

介護のイメージ

介護する家族の苦悩につながることも

より問題だと考えるのは、患者さんを介護する家族と、遠方に住みたまにやって来る家族の場合です。

ありがちな例としては、認知症が悪化し、衰弱して来た母親を介護する同居の娘や嫁、といったケース。色々心配しきょうだいや夫に不安を伝えても、たまに来た息子に対しては母親はいつもより元気でしっかりした姿を見せてしまいがちです。

こうして介護していない家族は、頑張っている患者さんをみて病状を過少評価しやすく、一生懸命看護している家族を大袈裟と捉えてしまう傾向にあります。

更に、患者さんに被害妄想、もの盗られ妄想、苛立ちなどがあると、より一層事態は深刻です。認知症の患者さんの疑いや苛立ちの矛先はだいたい一番近くで頑張っている介護家族に向きがちだからです。

アスペルガー障害のパートナーを持つ妻・夫がその苦労や孤独感をなかなか周囲に分かってもらえない状態をギリシャ神話にちなんで「カサンドラ症候群」と呼びますが、私はこの認知症の患者さんを看る家族もカサンドラ症候群と似た状態になりやすく、周囲の理解が重要だと考えています。

そうでないと、やがて家族の不和にもつながりかねません。

大切なのは知識を持つことと相手を信頼すること

ここまでお話したように、滅多に合わない家族ほど、普段とは違う患者さんをみているかもしれない、という認識が必要です。

また、なかなか見舞いに来れない、という家族はケアマネジャーや看護師、医師にも、電話などでいつもの様子を聞くようにすると良いと思います。

また、息子さん(男性)に説明するときは、体重の変化や長谷川式の点数などの数字で伝えると事態を理解してくれる方が多いように思います。たとえば、長谷川式の点数がおととし、去年と比べこのように変化していますとか、半年で10%の体重減少しているので栄養がきちんと摂れていないようです、などといった具合の説明です。

そして何より、一日の多くを患者さんと一緒に過ごしている、大変な介護を引き受けてくれている家族への信頼が重要ではないかと思うのです。

まとめ

患者さんが無意識に、相手によって言うことや見せる顔を変えるということはある意味当然で、珍しいことではありません。百聞は一見にしかず、という言葉がありますが、逆に自分のみているものだけが正しいと思い込むと色々なものを見落とすことになる場合があるという理解は大切だと思います。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

元ホスピス勤務医、総合内科専門医。2013年7月大田区久が原に「小原りぼんクリニック」を開業。緩和ケアと認知症診療、訪問診療をライフワークにしています。介護は、まずは家族を支えなければ始まらないをモットーに、対話を重視する診療を心がけています。

コメント

コメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

目次