この記事は、体力や足の筋力が落ちてしまい通院が大変になって来た方、あるいは病院から「訪問診療」を勧められている方は是非読んでみて下さい。
また、70代以降の親を持つ方にもお読みいただき、今は不要であってもいつか必要になった時に「そう言えばこんな制度があったっけ」と思い出していただけたら嬉しく思います。
訪問診療と往診の違い
「訪問診療と往診」、両者の違いをご存じでしょうか。どちらも医師が患者さんの家に行き診察を行うことは同じですが、往診は、「今日は具合が悪い」という患者さん、あるいは家族の求めに応じて行う、臨時の診察を指します。
これに対して訪問診療は簡単に言えば通院の代わりで、患者さんの困りごとや様子に変わりがないかを医師が出向いて定期的に確認し、血圧を測ったり聴診をしたり、必要な指導や薬を処方することです。「あらかじめ立てた診療計画に基づき」行うとされており、訪問日や時間を決めて行われます。
訪問診療を普段行っており、患者さんのことをよく知っているからこそ、私たちは往診でより早く正確な判断をすることが出来るのです。
ただし、後述するように制度として「訪問診療」と呼ぶ場合、この定期的な訪問診療と臨時の往診を組み合わせたサービスのことを指します。
制度としての「訪問診療」
患者さんの家に定期的に訪問し、通院の代わりに自宅で診察をすることが訪問診療であるというお話をしました。しかしここからは厚労省の定めた「訪問診療」という仕組みについてお話します。
「訪問診療」は保険診療なので、私たちはいくつかのルールに従って診療する必要があります。
まず、概要を説明すると、「訪問診療」では上記の定期的な訪問診療と、臨時に行う往診を組み合わせたサービスと書きました。つまり、ふたつを切り離し、どちらかだけというわけにはいきません。
具体的には訪問診療医は「月1回以上」定期的な訪問診療を行う必要があり、定期訪問はだいたい外来の変わりです。医師は診察を行い、患者さんの困りごとを聞き、時に採血などの検査を行い、必要があれば追加の治療を行います。
これに加えて24時間365日患者さんからの連絡を受け対応(詳しくは後述)することが義務付けられています。患者さんの病状により定期的な訪問診療は月2回になったり、週1回になったりと回数は変わります。
訪問診療の開始は口約束では認められず、必ず「同意書」を書いていただく決まりになっています。
なお、訪問診療の料金については以下をご参照下さい。

「訪問診療」を始めるには
訪問診療を行なっているクリニックに電話すれば必要なことは教えてもらえます。かかりつけの開業医で訪問診療をやっていれば良いですが、行っていない開業医さんも多いので確認が必要です。依頼先が分からない時はインターネットで「訪問診療」で検索すると良いと思います。
ただ、病院にかかっている方は病院のソーシャルワーカー、介護サービスを利用されている方はケアマネジャーに相談するのが近道です。直接ネットで調べて電話をしても良いのですが、ケアマネジャーはきっと評判も分かっていて患者さんや家族の希望に合う訪問医を紹介してくれると思います。
担当のケアマネジャーがいない方は、まず「地域包括支援センター」でご相談可能です。

こんな場合訪問診療をお勧めします
基本的に、一人で通院出来ない患者さん全てが訪問診療の対象になり得ます。確かに付き添いがいれば、車いすを借りれば、または寝台車を使えば通院は出来ないことはないですが、病気が増えるに従い受診先も増えたり待ち時間も大変になります。この場合は病院の主治医に訪問診療に出来ないかをご相談いただいても良いと思います。
また、体調が変化しやすい方の場合、臨時の往診を利用することで救急外来の受診を減らせる可能性があります。ご高齢の方だと安心だけで具合が良くなることもあります。
そして訪問診療は外来と比べると診療の時間が長くとれるので、ゆっくり話がしたい、聞きたいという方にも向いています。
なお今のところ、訪問診療を行ってると病院の外来に通院出来ない、というような決まりはありません。中には専門的な治療だけは病院で受けながら、その他の用件は訪問診療で受ける方や、普段は訪問診療で診てもらいながら数か月に一度病院でしか出来ない検査を受けるために受診されている方もいらっしゃいます。
通院を一旦終了する場合、病院の担当医やかかりつけ病院と離れることを不安に思う方もいらっしゃいます。しかし通常訪問診療に切り替わったからその病院にもう診てもらえない、それを理由に入院を断られることは基本的にありません。訪問診療を受けている方も、急に検査や入院が必要になることがあることくらい病院の先生はご存じです。
心配なら「何かあった時はよろしくお願いします」と伝えておけば良いと思います。
「訪問診療」の臨時対応について
先ほどお書きしましたが、患者さんの具合が悪い、いつもと様子が違う時に対応するのが訪問診療の大切な仕事です。
この「臨時対応」はあまり心配ない内容であれば電話で済む場合もありますし、状況によっては臨時の往診を行い診察や治療を行います。しかし電話を受けた時点で非常に緊急性が高いと判断されればすぐに病院の受診をお勧めする場合もあります。
すぐに受診をお勧めすることがある理由は第一に「訪問診療」の往診は多くの場合、救急車のように5分、10分では行けません。私のクリニックの過去の実績では多くの場合どうしても1~2時間程度はかかってしまいます。これに加えて緊急性の高い問題の場合、1~2時間後に訪問医が聴診器を持ってかけつけてもどうにもならないことが多いからです。
ただし、この場合も受診先の病院に連絡をしたり、直近の様子を病院に、「情報提供書」を作成しFAXします。この「情報提供書」は内容が大切さはもちろんのこと、この書類を送ることで病院の先生も病院でどんな検査を行い、どのような診断となり、どのような治療を行ったか、などの情報を訪問医にフィードバックしてくれます。
結果連携が強まり、診療の内容を患者さんや家族、看護師やケアマネジャーとも共有しやすくなるといったメリットがあります。
訪問診療が終了するとき
訪問診療は月の単位で行われますが、不要になればいつでも終了出来ますし、主治医と合わないと感じれば変更も可能です(だいたい、直接は気まずいのでケアマネジャーさんが間に入ってくれたりします)。また、終了の際は同意書のような書類は不要です。
もちろん患者さんが亡くなってしまった場合は終了となりますが、ほかに多いのは患者さんが施設に入られる時です。施設では別な医療機関が訪問診療を行う場合もありますし、施設の嘱託医が対応する場合もあります。また、骨折などの怪我が理由で始まった訪問診療では特に、患者さんが元気になって通院出来るようになれば終了です。
訪問診療の開始には同意書が必要でしたが終了の際は書類の手続きは不要で、医師が訪問しなくなれば訪問診療は終了になります。
まとめ
「訪問診療」がどのような方に役に立つのか、また「訪問診療」のだいたいの仕組みについて解説しました。なじみのない方は一度読んだだけでは意味が分からないかもしれませんが、必要な時に思い出して読み返していただけたら嬉しいです。
気の合う、何でも相談出来る頼りになる訪問診療医と出会えればとても心強いと思います。通院が大変だなと感じる方は是非検討してみて下さい。